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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)602号 判決 1977年1月27日

原告

山陽木材防腐株式会社

右代表者

田中真一郎

右訴訟代理人

角田好男

外二名

被告

丹海産業株式会社

右代表者

渡辺準以知

右訴訟代理人

河合宏

被告

飯野港運株式会社

右代表者

西田安郎

右訴訟代理人

宅島康二

主文

一、被告丹海産業株式会社は原告に対し、別紙物件目録記載の原木を引渡し、かつ金一七一万六、一一三円およびこれに対する昭和四九年二月二八日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、被告飯野港運株式会社は、原告に対し別紙物件目録記載の原木を引渡せ。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

四、この判決は仮に執行することができる。

事実

一、申立

1  請求の趣旨

(一)  主文第一ないし第三項同旨の判決

(二)  仮執行の宣言。

2  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(一)  原告の請求はいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、主張

1  請求原因

(一)  原告は、電柱、枕木等の製造販売を業とするもの、被告丹海産業株式会社(以下被告丹海という)は原木の販売を業とするもの、被告飯野港運株式会社(以下被告飯野という)は原木等の保管を業とするものである。

(二)  原告は、昭和四八年九月一七日、訴外小西商店こと小西一三(以下小西という)から原木(樹種米栂、運送船名トクシン丸、ロツトナンバーT3、保管場所舞鶴市字大君飯野港運株式会社木材置場)646.503立方メートル(以下本件原木という)を代金一、五五九万三、六五二円(単価一立方メートル当り金二万四、一二〇円)で買受け、その代金を支払つた。

本件原木はいわゆる外材であつて、まず商社が舞鶴港に輸入し、これを訴外東林株式会社(以下東林という)が買取り、東林は同年八月末ごろ被告丹海に売却し、被告丹海はこれを訴外有限会社三木木材商会(以下林三木材という)に、林三木材はこれを訴外株式会社大雄(以下大雄という)に、大雄はこれを小西にと順次売却し、それぞれその代金を完済したものである。

(三)  東林は被告飯野との間で本件原木につき被告飯野の土場の使用を含めた保管契約を締結したが、被告丹海は東林から右売渡を受けると同時に本件原木に対する直接占有を取得し、被告飯野と共同占有するに至つた。しかして、被告丹海から林三木材に対しては民法一八三条による占有改定の方法で占有が移転し、以後、その後の取得者から被告丹海に対し出荷指図書が送付されることにより民法一八四条の指図による占有移転がなされた。

(四)  小西も原告に対し本件原木を売却すると同時に被告丹海宛に出荷指図書を送付し、被告丹海は同月二四日原告に対して本件原木につき、以後原告のために保管する旨の保管証を交付した。

(五)  そこで、原告は、被告丹海に対し本件原木の引渡を請求したが、同被告はこれに応じないばかりか、昭和四八年一一月一〇日ごろ本件原木のうち71.149立方メートルを原告に無断で他に売却し処分した。被告丹海が右処分した原木は一立方メートル当り金二万四、一二〇円に相当するから、原告は、被告丹海の右違法行為により金一七一万六、一一三円の損害を蒙つた。

(六)現在、被告丹海が占有している原木は別紙物件目録記載のとおりであり、被告丹海はこれを被告飯野に保管させているが、その実は被告丹海が実質的に右原木を支配している。

(七)  よつて、原告は、被告らに対し、所有権に基づき右原木の引渡を求め、被告丹海に対してはさらに前記不法行為に基づく損害賠償金一七一万六、一一三円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日から右支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する被告丹海の認否<以下、略>

理由

一請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、本件原木は昭和四八年六月ごろ商社によつて舞鶴港に輸入され、商社より東林、被告丹海、林三木材、大雄、小西に順次転売され(右事実は被告丹海との間においては争いがない)、原告は同年九月一七日小西より本件原木を代金一、五五九万三、六五二円で買受けて代金を完済し、本件原木の所有権を取得したことが認められる(証人中島勇雄の証言および被告丹海代表者尋問の結果中、原告が本件原木を代物弁済により取得した旨の部分はたやすく措信し難い)。

三被告丹海は、同被告と林三木材間の前記売買契約は、同年一〇月一〇日解除され、本件原木の所有権は同被告に復帰したと主張するので、検討する。

前記認定の事実および<証拠>によれば、東林は同年六月ごろ本件原木を商社より買受けた際、被告飯野との間に、本件原木を同被告の土場に保管する旨の寄託契約を結び、本件原木を同被告に引渡したが、その際両者間に、同年九月末日までに本件原木を搬出する旨の口頭の約束がなされたこと、東林は同年八月末ごろ本件原木を前同様同年九月末日までに搬出する旨の約定のもとに被告丹海に売渡し、それとともに被告飯野に対し、本件原木を被告丹海に引渡すことを依頼する内容の出荷指図書(この指図書は同時に原木の引渡までこれの保管を命じた趣旨をも含むものと解することは後述のとおり)を交付して、被告丹海のために本件原木を占有保管することを命じ、被告丹海においてもこれを承諾し、これにより被告丹海への指図による占有移転が行われた(これとともに本件原木の被告飯野に対する寄託者は被告丹海となつた)こと、被告丹海は同年九月五日本件原木を林三木材に売却したが、その際林三木材との間に、林三木材において前同様本件原木を同年九月三〇日までに搬出する旨の約定がなされ、売買契約書にも特約条件としてその旨記載されたこと、本件原木はその後前記のとおり順次原告にまで転売されたが、約定の同年九月末日までに原木が搬出されなかつたため、被告丹海は、同年一〇月一〇日林三木材に対し前記搬出期限の不履行を理由として、林三木材との間の売買契約を解除し、同年一一月六日原告に対してもその旨を通知したことが認められる。

そこで右解除が有効か否かについて判断する。

被告丹海は、林三木材との売買契約に原木の搬出期限を付した主たる事情として、現実に原木が搬出されるまでの保管料の支払義務は、被告丹海が負つており、したがつて原木の搬出が遅れると、それだけ被告丹海のリスクが増大することを挙げ、その他にも種々の事情を述べる。なるほど<証拠>を総合すると、舞鶴港の保管業者としては、寄託をうけた原木の保管期間の短い方が原木の回転が早くなつて荷役料等を稼ぐ上に有利であり、また狭隘な舞鶴全体の荷捌きをよくする点からもその方が望ましいため、同港における保管業者と材木取扱業者との間において、約定の搬出期限(一般には六か月)経過後の保管に対しては、一般保管料のほかに長期滞留材の保管料、迷惑料を徴収することができることとなつており、したがつて本件においても原木の搬出が遅れれば、それだけ被告丹海の負担すべき長期滞留材の保管料等が増大する関係にあることが認められる。しかし被告丹海としては、右保管料等を負担したとしても、最終的にはこれらの金員を林三木材あるいはその時点の原木所有者に請求することができるし、場合によつては原木上に留置権を行使することも可能なのであるから、被告丹海が現実に損失をうけるおそれは必らずしも大きくないと考えられ、また一方証人大島明の証言によれば、迷惑料の徴収は、現実には約定の搬出期限を経過したからといつてすべての寄託者から徴収されるとは限らず、一、二か月の遅滞の場合には微収されることなくすまされることもあり、現実に徴収するかどうかはケース毎の判断に委ねられていて、必らずしも厳密に励行されておらず、現に被告丹海も、昭和四六年一〇月末には約定の期限を一か月経過していたにもかかわらず、被告飯野よりこれらの金員の支払請求をうけてはいなかつたこと、証人築地厚吉の証言によると、原告の従業員である同証人は、原告が本件原木を買受けた頃の九月一九日より同月二四日までの間に、東林、被告飯野および被告丹海を訪れ、本件原木を原告が買受けたことを告げ、引きつづいての保管を依頼したのに対し、同被告らより、九月三〇日までに搬出するよう特に督促をうけた事実のなかつたことが認められ、また右築地厚吉が被告丹海を訪れた際に同被告代表取締役渡辺準以知より交付をうけた保管証(甲第四号証)には、「速かに御引取願うことを希望しております」程度の記載しかなされていないこと、被告丹海代表者尋問の結果によれば、被告丹海は林三木材との売買契約解除後も自らは直ちに本件原木を搬出することなく(同年一一月初旬ごろトラツク一、二台分を搬出したにすぎない)、それも当時材木の価格が下落していて採算の合う売先が見付からないという自己の営業上の都合を理由としていることが認められ、これらの事実からすると、本件搬出期限の定めは、売買代金の不払いなどとは異なり、それらの不履行が売買契約の目的の達成を妨げるほどの重要性をもつものとは考えられず、附随的な条項にすぎないと解され、しかも約定の搬出期限徒過後わずか一〇日で解除している等の諸事情から考えると、本件契約解除は解除理由が薄弱で取引における信義則に反し無効であるといわざるをえない。もつとも期限内に材木の搬出が行われないことにより、舞鶴港における土場利用の回転が悪くなり、その効率的な利用が阻害されることがあるかもしれないが、右は被告飯野にとつて寄託契約の解除の理由となりうる場合があるとしても、売主(寄託者)である被告丹海が買主との間の売買契約を解除する理由にはなりえないものというべきである。

四以上の次第で本件売買契約の解除はその効力を生じないというべきであるが、仮に本件契約解除が有効であるとしても、次のとおり原告は民法五四五条一項但書にいう第三者に当たるから、被告丹海は右解除をもつて原告に対抗できない。

すなわち、前記認定の事実、被告丹海との間においては成立に争いがなく、被告飯野との間においては<証拠>によれば、本件原木が東林より被告丹海に売却された際、前記のとおり東林は被告飯野に対し出荷指図書を交付したこと、本件原木は前記のとおり被告丹海より林三木材、大雄、小西を経て原告に順次売却され、その売却の都度各売主により被告丹海に対し、各買主に本件原木の引渡を依頼する出荷指図書が交付され(但し、林三木材と大雄間の売買については出荷指図書は発行されていない。また被告丹海と林三木材間の売買においては、同被告は被告飯野に対し出荷指図書を発行していない)、小西、原告間の売買においても、昭和四八年九月一七日付をもつて、小西が被告丹海に対し前記趣旨の出荷指図書を交付したこと、同月二四日前記築地厚吉は前記のとおり被告丹海代表取締役渡辺準以知に会い、原告において本件原木を買受けたことを告げ、その保管方を依頼したところ、右渡辺は、被告丹海において本件原木を原告のため保管する趣旨と解される保管証(甲第四号証)を同人に交付したことが認められる。

ところで、本件原木の各売主が被告飯野あるいは被告丹海に対し交付した出荷指図書は、前記のとおり各買主に本件原木を引渡すことを右被告らに依頼した書面であるが、右出荷指図書は同時に、各買主が本件原木を現実に引取るまでの間、被告飯野あるいは被告丹海において各買主のため保管することを命じた趣旨をも含むものと解されるところ、前記認定の事実よりすれば、被告飯野は東林との寄託契約により本件原木の引渡をうけてその直接占有者となり、東林は間接占有者となり、その後東林が本件原木を被告丹海に売却するとともに被告飯野に対し出荷指図書を交付して被告丹海のため保管を命じ、被告丹海がこれを承諾したことにより、被告丹海への指図による占有移転が行われ、爾後被告飯野において被告丹海の占有代理人として本件原木を直接占有し、被告丹海は東林に代わつて間接占有者となつたものというべきである。そしてその後更に、本件原木が被告丹海より林三木材、大雄、小西を経て原告に売却され、売主より被告丹海に対し同被告を名宛人とする出荷指図書が交付され、買主においてこれを承諾(黙示的に)したことにより、原告ら各買主は被告丹海を占有代理人として占有(間接占有の間接占有)を取得したものというべきである(特に原告の場合には、被告丹海が原告に対し前記保管証を交付したことにより、同被告は本件原木の所有権を原告が取得したこと、および同被告において原告のためこれを保管することを認めたものというべきであるから、より明確に原告に対し指図による占有移転が行われたというべきである)。

仮に右の指図による占有移転が認められないとしても、被告丹海と原告間における前記保管証の授受により、被告丹海は本件原木を爾後原告のために保管占有する意思を表示したものと解することができるから、民法一八三条の占有の改定により、原告は本件原木の占有(間接占有の間接占有)を取得したものということができる。

したがつていずれにしても、原告は本件原木の占有権を取得し、これにより対抗要件を具備したものというべきであるから、民法五四五条一項但書の第三者に当たり、被告丹海は林三木材との売買契約の解除をもつて原告に対抗できないというべきである。なお、被告丹海は、同被告からの直接の買主である林三木材に対する抗弁事由をもつて、原告ら爾後の買主にも対抗できる商慣習があるかのように主張するが、被告丹海代表者尋問の結果のうちこれに沿うべき部分も明確さを欠き、他に右商慣習の存在ないしはその存在を窺わせるべき証拠はないから右主張は採用できない。

以上いずれの点からするも、本件原木の所有権は原告にあるというべきである。

五被告丹海の原告に対する本件原木の引渡および損害賠償義務について

前記認定のとおり被告丹海が原告の占有代理人として本件原木を占有している以上、同被告が原告に対し本件原木の引渡義務を負うことは明らかである。また被告丹海が昭和四八年一一月一〇日ごろ本件原木のうち71.149立方メートルを原告に無断で他に売却したこと、右売却した原木が一立方メートル当り金二万四、一二〇円に相当することは、当事者間に争いがなく、右事実によりすれば、原告は被告丹海の右不法行為により金一七一万六、一一三円の損害を蒙つたというべきであるから、同被告は原告に対し右損害を賠償する義務があるものというべきである。よつて被告丹海に対し、本件原木のうち右売却ずみの分を除いた別紙物件目録記載の原木の引渡し、および金一七一万六、一一三円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四九年二月二八日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

六被告飯野の原告に対する原木引渡義務について

1  被告飯野が別紙物件目録記載の原木を占有していることは当事者間に争いがないが、前記認定の事実よりすれば、被告丹海と林三木材、林三木材と大雄、大雄と小西、小西と原告間の各売買においては、被告丹海に対し出荷指図書が交付されてはいるものの、被告飯野に対しては出荷指図書が交付されていないのであるから、被告飯野に対する関係では被告丹海が依然として寄託者であり、林三木材以下の各買主は、被告丹海に対しては原木の引渡請求権を有するも、被告飯野に対しては直接原木の引渡を請求する契約上の権利を有するものではない。しかしながら、被告丹海が原告に対する前記引渡義務を履行するためには、同被告は被告飯野に対し原告への出荷指図をしなければならず、他方被告飯野としては、被告丹海より義務履行としての右出荷指図があれば、その占有する原木につき生じた未払債権がある場合に留置権を行使できるほかは、必らずこの指図に従わなければならない関係上にある以上、被告飯野としては、被告丹海が原告に対し右引渡義務を負う本件の場合には、留置権の行使により債権の弁済が確保される限り、本判決をもつて被告丹海の出荷指図に代え、原告に対してもその所有権に基づく引渡請求により自己の占有する原木を引渡すべき義務を負うものと解するのが相当である。

2  そこで被告飯野の留置権の抗弁について判断する。

被告飯野は、滞留が六か月を経過すると、通常の土場使用料、長期滞留材土場使用料のほかに、長期滞留損害金(迷惑料)として月一立方メートル当り金一、三六〇円の支払をうける合意が同被告と舞鶴港材木取扱業者間に成立していたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない。もつとも証人大島明の証言中には、その主張のような合意が業者との間に存在していたことを思わしめる供述があるが、同人の供述によつても右のような迷惑料の徴収は現実には完全に励行されているとは限らず、ケース・バイ・ケースであつて、またその金額も事後(期限徒過後)相手方との交渉によつて定めると解せられる供述部分があつて明確を欠き、その他の証人の証言を併わせ考えても、迷惑料を徴収した例が過去において若干あつたことが窺われる程度であつて、被告飯野と業者との間にその主張のような一般的合意のあつたことを認めることはできないし、また本件当事者間に個別的な合意が成立していたことを認めることもできない。よつて右迷惑料の支払請求権の存在を前提とする被告飯野の抗弁はこれを採用することができない。

七以上の次第で、原告の本訴請求はすべて理由があるから認容し、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(仲江利政 高橋水枝 片山良廣)

物件目録 <略>

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